ソール・ライター


「私が写真を撮るのは自宅とその周辺だ。神秘的なことは馴染みの深い場所で起きると思っている。世界の裏側にまで行く必要はないんだ。」

Bunkamuraで開催中のソールライター氏の写真展に感動致しました。

シャープな構図も挿し色使いも見事ですが、NYイーストビレッジの自宅周辺にある変哲のない風景を艶のあるアートに昇華させてしまうライター氏のその独自の視点が圧巻でした。フレーミングの妙なのか、奥行きが作り出す効果なのか。カメラに写し出される市井の人々がみな映画の主人公かのように、その前後にあったであろう物語の存在をこちら側に強烈に想像させます。ライター氏の手によって当たり前の風景に底知れぬロマンが注入されています。

本来はネガティブなイメージを持つ「雨」や「雪」すらも、物語に儚さを加味するエッセンスとして美しく機能しています。さすがです。

「ここではないどこかや誰か」に理想や憧憬を抱きがちですが、目線や切り取り方次第で身近な環境や人間も宝物に成り得るんですよね。ライター氏のメッセージに激しく共感致しました。ああいう卓越した視点はどうやったら獲得できるのでしょうか。訓練なのか、才能なのか。はぁー。漠然と過ごしてきた己の半生をひたすらに呪うばかりです。

それにしても50年代のアメリカって「古き良き時代」と称されるだけあって勢いがあったのですね。街の雰囲気や人々の表情からそれがよく伝わってきます。生命力が漲っている。男性は精悍な顔つきで女性は皆華やかで。戦争が終わって、車やマイホームが普及し始めて、広告が消費の拍車をかけて、未来はバラ色で。きっと時代が移り変わる様をダイレクトに実感しながら生きていたのでしょう。

激動の社会とそれを独特の目線で記録するカメラマン。
本当に数十分間魔法にでもかかったかのような、素晴らしい写真展でありました。





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