ラッキー


渋谷のUPLINKにてハリーディーンスタントンの遺作を観てきました。

90歳で、こんなに絵になる人いる?ってぐらい、仕草や佇まいが別格のかっこよさ。サボテンと砂漠と青空しか写らない寂れた背景に、ハリーが1人登場するだけで、全カット、ポスターにして部屋に飾って置きたいぐらいの色気を纏ってしまうから不思議です。

まるで90歳のハリーディンーンスタントンの最期の日々を実際に記録したかのような映画で、彼の生き様や長い人生をかけて獲得してきた哲学を、アメリカ南部の田舎町で暮らす90歳のラッキーという男の日常を借りる形で描いています。

1人暮らし、朝起きて、ヨガをやって、タバコを吸って、クロスワードやって、決まりの喫茶店にいって、夜は決まりのバーにいって必ずブラッディマリアを注文するというルーティンを延々と繰り返します。所々、妙にリアリストで、偏屈で、虚勢を張る面倒なお爺さんとして描かれるのですが、ある朝転倒事故を起こすことで、確実に迫り来る「死」を直視するようになります。これまで覆い隠してきた不安や怯えを素直に受け入れることで、逆に自分を取り巻く日常に愛おしさが増し、前を向いて生きる気力を取り戻す。というストーリーです。

人生の大ベテランであるはずの90歳の人間の心情の変化が心地よく写し出され、見終わった後、必ずや晴れやかな気持ちに包まれます。(ほったらかしだったコーヒーメーカーの時計を直すシーンやガーデンパーティーでスペイン語の歌を披露する下りが特に印象的。)

「死」を意識することで、結局「生きるとは何か」を問い始める主人公なんですが、当たり前ですが、どんな人間も生まれるのも死ぬのも1回だけなんですよね。それは20歳も90歳も同じ。1回性であるが故に、誰も本当の答えを知らないのがやっかいです。だからこそ、自らの生を肯定してくれる答えを常に探すはめになる。答えは分からないが、自分の半生を手がかりに答えらしきものを掴みかけるラッキーの最期の笑顔が心に染みます。

「孤独と1人暮らしは違う」
「無駄な世間話をするくらいなら、気まずい沈黙の方がましだ」

90歳の男が口にする言葉はパンチラインだらけ。
年輪を刻んだハリーのくしゃくしゃの表情は、男が憧れる男のそれです。

また自分が年を取ったときに観たら、どんな風に感じるのか。
ずっと心に留めておきたい良作でした。


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