イニエスタ



長い長い暗黒時代を経て、ライカールトとロナウジーニョが懸命に種を撒き、グアルディオラによって咲き狂ったバルセロナの華々しいフットボール。

どこまでも正攻法で、ボールスポーツが持つ深淵なる世界を余すことなく表現しようという気概に溢れ、それはまさにフットボールの絶対的正義として君臨していました。

そんなバルセロナのフットボールが圧倒的な基準点となり、それに対抗する策としてモウリーニョやシメオネ、コンテなどによって手段を選ばない別軸のスタイルのフットボールが開発され、バルセロナ的なものと互いに鎬を削り合うことで、ここ10年間の欧州サッカーは異次元のエンタテイメント性を纏うことになり、他のどんなコンテンツをもってしても到達することができない至極のカルチャーに成熟したと思うのです。

で、そうした魅惑的な欧州サッカーの基準点としての使命をピッチ上で担い、欧州サッカー全体のクオリティーの担保、ひいてはフットボールが持つ神秘の最終的な門番として機能していたのが、この度、惜しまれつつも移籍を表明したバルセロナの8番だったと思うのです。

そういう意味で、彼がバルセロナを去るということは、必然的に、栄華を極めた昨今の欧州サッカーのひとつの時代の終わりを告げることを意味します。

メッシやCロナウド、ネイマールのような、ある種の飛び道具、賑やかし担当では、彼が長らくフットボール界で耕してきた領域を穴埋めすることはできないでしょう。

この先、誰を頼って、フットボールを愛でればよいのか。
この先、誰がフットボールをフットボールたらしめてくれるのか。
いちフットボールファンとしても存続の危機に直面しております。

本当に悲しいですが、何事にもいつか終わりがやってくるという事実を僕らは正面から受け止めなければいけないのですね。

他を凌駕するフィジカルやスピード、曲芸がなくても、余分なカロリーを削ぎ落とし、確かな基礎技術と知恵だけを武器に、すべての難局を打開する姿は、過去に存在したであろう、ファンタジーとやらを標榜する、あらゆるサッカー選手へのアンチテーゼのようで、フットボールへの理解の窓を新たに開拓したイノベーションと評しても言い過ぎではないでしょう。

これほどの実力者にバロンドールが一度も授与されていないという事実には改めて驚愕します。時代や社会は得てして真実を見誤るということの証左なのでしょう。

いつかまた彼のような逸材が奇跡的に現れていることを心の底から祈っております。

中国なんかじゃなくて、日本に来てくれたらいいのになー。























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