シングストリート
THANK YOU FOR THE MUSIC ♫ ってアンセムがありますが、あれはやっぱり、切実に音楽に救われた経験があるからこそ生まれた歌なんだと思います。音楽への感謝。
僕も音楽が好きで中途半端にバンドなど(BON JOVIのカバーなど非常にダサいやつ)やってましたが、音楽によって切実に人生が救われたというほどの実感はないです。
ただし、音楽が好きだったからこそ、音楽を通じて、好きな女子とお近づきになれたり、怖そうな先輩と仲良くなれたり、人間関係を深めていけたなーという感触は決定的にあります。今でも、初対面の人と音楽の趣味が共通だったりすると、言葉を介さなくても、互いの心理的な距離がぐっと縮まっていく感触はかなりあります。そして、音楽を聞いて気持ちが奮い立った経験や、音楽を聞きながら景色を眺めるとその景色が何倍も情緒的に見えたりした経験も決定的にあります。
何が言いたいかというと、形が見えないから測定したり数値化できないのですが、「音楽の力」とか「音楽の効能」といったものはこの世に確かにに存在していると思っています。食べ物の栄養価と違って実体がなくてフワフワした概念だから、音楽に興味がない人には全く理解できないと思いますが。
で、この映画。
「はじまりのうた」と「ONCE ダブリンの街角で」と同じ監督の作品ですが、今回で確信しました。この監督は、もう取り憑かれたように「音楽の力」の存在を信じているし、毎回、その目には見えない価値を必死に可視化して社会に伝えようとしています。音楽を通じた人生讃歌的な音楽ネタの映画は数多ありますが、この人の作品は、完全に音楽が対象の音楽讃歌になっています。音楽への恩返しがライフワークなんだと思います。だから劇中歌のクオリティも毎回驚くほど高い。
80年代の不況下にあるダブリンを舞台に、恵まれない社会環境の中、多感な少年たちが音楽を通じて未来と可能性を切り拓いて行くという話で、お決まりの甘酸っぱいロマンス要素もありますし、まんまマルーン5の美バラードももれなく付いてきます。
ストーリー全体は典型的な展開だし、登場人物の背景描写も驚くほど淡白です(ベースとドラムのメンバーが一瞬で見つかるシーンのやっつけ感はすごい)。その代わり、音楽をすごく描こうとしています。曲が生まれる背景は丁寧にシーンを立て、歌詞やメロディに感情移入できる設計になっているし、主人公が音楽によってあらゆる閉塞感を打破していく過程もしっかりと伝わってきます。
音楽で女子を口説き、音楽で仲間を築き、音楽で不寛容と戦う。
特に引きこもりの音楽オタクの兄と主人公が絡むシーンはほぼ最高。
弟の思春期の様々な悩みに対してレコードを使って導こうとする兄。
音楽で会話が成立し、音楽で絆を深めていく。
もしもこの主人公が音楽と出会ってなかったらと想像すると絶望的な気持ちになります。
監督の半自伝的な作品というのも頷けます。
音楽が好きな人なら、自分と重なりあう要素が多く、かなり共感できる作品ではないでしょうか。
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