さよなら未来


テクノロジーや最新科学を切り口に、世界の森羅万象の最先端にアプローチし、半歩先どころか、10歩先の未来を、ワクワクする期待感とともに読者に提示し続けてきた雑誌『WIRED』の名物編集長のコラム集です。

文句なしの名著です。痺れました。世に蔓延る思考停止に中指を立て、ついついトレンディーな言葉でお茶を濁す我々の尻を思いっ切り蹴り上げてきます。ケガする読書です。

スタートアップ、イノベイション、仮想通過、ソーシャルネットワーク、AI、ブロックチェーン、データ革命、etc...。毎年のようにIT業界界隈から溢れ出る、耳触りのよい言葉や概念に安易に同乗せず、徹底的に調べ上げ(参考文献の洗い方が尋常ではないと思われる)、歴史と対峙し、根源的に混ぜ返すことで、「未来」を切り拓く上で本質的に大切な心構えを炙り出していきます。

斬新な導きを期待して読み進めていくと、これが、まあ、だいぶ拍子抜けします。

百科事典並みのページ数を誇り、トートバッグの底が破ける程の重量で振りかぶってくる割には、通奏低音として響いてくるメッセージは、「結局、勇気が一番大事だよね」っていう、6歳児でも知っている、単純で幼稚で自明すぎるテーゼです。未来志向の最新テックマガジンが聞いて呆れます。

が、氏の取材量、読書量、思考量をもってして提示されると、その響き方が違います。

IT革命がどこまで進化しようが、この先ありとあらゆるマーケティング用語が開発されようが、電子国家がやってこようが、それはあくまでツールであり、世界を前進させる動力は、いつ何時も「えいやっ」っていう誰かが振り絞った勇気。ニーズや戦略論ではない。そして、そんな誰かの勇気を受信する側の勇気も同様に価値があると氏は説きます。そこを見誤って、側のツールや結果論に血眼になっているようでは、正しい社会認識、ひいては社会変革はできないと。

正面突破を挑むのがこわい。
自分の実力のなさが明るみに出るのがこわい。
後ろ指さされたくない。責任を取りたくない。
そんな弱さを覆い隠す為の道具が、社会や組織には溢れていて、結果が出てから動き出す。そんな世の中が常態化していることに氏は警鐘を鳴らしています。

そして最後まで読み進めて行くと、本来は弱い人間が、そこから1歩踏み出すために、勇気をこしらえるために、誰かの勇気に勇気で応えられるために。知識や教養(人文知)といったものが存在しているんだな、ということにハッとさせられます。
イリイチの本も読んでみようかな。

前に読んだ、都築響一氏の「圏外編集者」も結局だいたい同じことが書いてあったなー。

痛烈ですが、人間愛があり、希望が溢れ出る一冊でした。

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